「保育園の看護師って、医療行為ってどこまでやるんだろう?」
病棟から移ろうか迷っていた頃の私が、いちばん引っかかっていた疑問でした。点滴も採血もない場所で、看護師として何をどこまでやっていいのか。逆に、いざというときに一人でどこまで対応を求められるのか。ここがはっきりしないと、飛び込むのは怖いですよね。
保育園看護師の医療行為は、病棟のように「日常的に処置をする」ものではありません。中心は健康観察・応急処置・与薬の管理・アレルギー緊急対応(エピペン)など。点滴・採血のような処置はほぼ行いません。ただし「どこまでやるか」は園・自治体・嘱託医の方針で大きく変わるため、最終的には応募先ごとの確認が欠かせません。
この記事では、そもそも医療行為とは何かという前提から、保育園看護師が実際にやること・やらないこと、与薬とエピペンの実際、そして「園によって違う」の中身までを、病棟から転職した私の実感と、公的な資料をもとにお話しします。
なお、仕事内容の全体像や1日の流れは保育園看護師の仕事内容|1日の流れと病棟との違いにまとめています。この記事は「医療行為の線引き」に絞ってお話しします。
そもそも「医療行為」とは?線引きの前提を先に
「どこまで?」を考える前に、そもそも医療行為とは何かをそろえておきますね。ここがずれると、園ごとの話がぜんぶ混乱してしまうので。
医療行為(医行為)とは、医師の医学的な判断や技術がなければ、人体に危害を及ぼすおそれのある行為のことを指します。これは厚生労働省の通知で示されている考え方です(厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」)。
ここで大事なのが、看護師の立ち位置です。看護師は、医師の指示があれば医療行為(診療の補助)を幅広く行える資格です。だから理屈のうえでは、保育園でも医師の指示があれば多くのことができます。
ところが実際の保育園には、「医療行為をする場面そのものがほとんどない」という現実があります。相手は入院患者ではなく、基本的に健康な子どもたち。治療の場ではなく、生活と成長の場だからです。「資格上できること」と「現場でやること」がずれている——これが保育園看護師の医療行為を分かりにくくしている正体だと思います。
保育園看護師が実際にやる医療行為・やらない医療行為
では具体的に、何をやって何をやらないのか。まずは一般的な傾向を一覧にします。
日常的にやらないことが多いもの(病棟では当たり前だったこと)
- 点滴・採血・注射(日常業務としてはほぼ行いません)
- 創傷の縫合や医療的な処置
- 医師の連続的な観察が必要な、状態が不安定な人への医療的ケア
保育園看護師が担うことが多いもの
- 登園時の視診・検温など毎日の健康観察
- ケガの応急処置(洗浄・止血・冷却・絆創膏での保護など)
- 発熱・体調不良時の状態観察と、受診が必要かの見極め
- 医師の指示にもとづく与薬の管理(後述)
- アレルギー緊急時のエピペン対応(後述)
- 感染症対策・衛生管理、保健指導
現役で9年働く保育園看護師さんも、実像をこう説明しています。
点滴・採血等はほぼ行わない。ケガの手当てや発熱対応が中心。園内で看護師は基本ひとり(現役保育園看護師のnoteより要約)
X上でも、病棟から移った方が「消毒・爪切り・トゲ抜き・保育補助がメインで、医療行為は少ない」と実感を書いていました(X上の当事者の声を調査)。ここは私の実感ともほぼ重なります。
正直にお伝えすると、病棟でやっていた手技の大半は、保育園では使わなくなります。この「使わなくなる」をどう受け止めるかは人によって分かれるところで、スキルの不安については保育園看護師はスキルが落ちる・錆びる?で正直に書いています。
ここに注意
「医療行為でない」とされる行為(体温測定・軽いケガの手当てなど)は、看護師でなくても保育士が対応できる範囲とされています。つまり保育園看護師の価値は「処置の手技」よりも、「その子を受診させるべきか、様子を見ていいか」を一人で判断する観察力にあります。ここが病棟との一番の違いです。
与薬はどこまで?保育園の薬のルール
医療行為の話で、いちばん質問が多いのが「薬」です。ここは特にていねいにいきますね。
保育園での与薬は、原則として医療行為にあたるという整理がされています。そのうえで、どうしても必要な薬にかぎって、保護者と園が話し合ったうえで対応する、というのが基本の考え方です。
厚生労働省の資料でも、保育所での与薬は「医師の指示にもとづいた薬にかぎる」こと、保護者に医師名・薬の種類・服用方法などを記した「与薬依頼票」を持参してもらうことが示されています(厚生労働省「保育所における与薬の取り扱いについて」)。実際の運用ルールは自治体ごとに「お薬マニュアル」として整備されていることも多いです(例:高知市「教育・保育施設におけるお薬マニュアル」)。
現場感覚でまとめると、こんな傾向があります。
- 医師が処方した薬しか預からない園が多い(市販薬は原則預からない)
- 与薬依頼票・薬剤情報提供書など、書面がそろってはじめて対応
- 一回分ずつ、名前を書いて持ってきてもらう運用が一般的
- 座薬・シロップなど、種類によって園の対応方針が分かれる
ただ、ここも「園によって本当に違う」部分です。「与薬は一切しない」と決めている園もあれば、慢性疾患の子のために体制を整えている園もあります。だから求人を見るときや面接では、「与薬はどこまで対応していますか」を具体的に聞いておくと、入ってからのギャップが減ります。
エピペン・アナフィラキシーはどう対応する?
食物アレルギーのある子を預かる園では、避けて通れないのがエピペン(アドレナリン自己注射薬)です。「注射なんて、園で打っていいの?」と不安に思う方が多いので、ここは根拠まで押さえておきましょう。
結論から言うと、アナフィラキシーで命に関わる緊急時には、その場に居合わせた人がエピペンを本人に代わって注射しても、医師法違反にはならないとされています。厚生労働省は「反復継続する意図がない緊急の救命行為だから、医師でない者の医業にはあたらない」という考え方を示しています(平成21年の厚労省見解。参考:アレルギーを考える母の会「教職員によるエピペン投与と医師法」)。この考え方は保育所職員にも及ぶと整理され、保育所におけるアレルギー対応ガイドラインにも位置づけられています。
看護師であればなおのこと、緊急時のエピペン対応は担う役割になります。実際には、
- アレルギーのある子は「アレルギー疾患生活管理指導表」を医師に記入してもらい提出
- その内容にもとづいて、園全体で緊急時の対応手順を共有
- 発症時は看護師が中心になりつつ、保育士も含めた全員で対応できる体制にしておく
という流れが一般的です。看護師が一人だからこそ、「自分がいない時間帯に発症したら誰が打つか」まで園で決めておくことが、保育園看護師の大事な仕事になります。
覚えておきたいこと
エピペンは「打っていいか迷う」場面が起こりがちですが、公的ガイドラインでは症状に迷ったら早めに使う方向で整理されています。ただし具体的な判断基準・手順は必ず各園のマニュアルと嘱託医の指示に沿ってください。この記事は一般的な扱いの説明であって、個別の対応を断定するものではありません。
ケガ・発熱の応急処置はどこまでやる?
日々いちばん多いのが、ケガと発熱の対応です。ここは「医療行為」というより「応急処置」の範囲で動くことがほとんど。
- ケガ:傷を流水で洗う、止血する、冷やす、絆創膏で保護する——このあたりは医療行為にあたらない範囲とされ、看護師でなくても対応できるとされています。看護師の役目は、そこに「縫合が必要か」「受診すべきか」という見極めを重ねること
- 発熱・体調不良:検温と状態観察をして、保護者に連絡し、お迎えや受診の判断につなげる。園の「発熱◯度で連絡」などの基準に沿って動きます
塗り薬や湿布を使う場合は、保護者の同意や医師の指示が前提になる点だけ注意です。「よかれと思って手持ちの薬を使う」はNG。ここは病棟の感覚のままだと踏み外しやすいところなので、覚えておいてくださいね。
一人職場でこの判断を全部背負うプレッシャーについては、保育園看護師は一人で不安?で気持ちの面から書いています。
医療的ケア児がいる園は話が別
ここまでは「一般的な保育園」の話でした。でも、医療的ケア児(日常的に医療的なケアが必要な子ども)を受け入れている園では、医療行為の範囲がぐっと変わります。
こうした園では、経管栄養やたんの吸引といった医療的ケアを、看護師が中心になって担うのが基本です。国も受け入れ体制づくりを進めていて、厚生労働省が「保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドライン」(令和4年)を出しています。
つまり同じ「保育園看護師」でも、医療的ケア児を受け入れている園なら医療的ケアが日常業務に入ってくるということ。「もっと看護師らしい仕事がしたい」という人には合う場合もありますし、逆に「医療的ケアの責任は避けたい」人は求人段階で確認が必要です。求人票の「医療的ケア児の受け入れあり」の有無は、必ずチェックしてください。
結局「どこまで」は園・自治体・嘱託医で変わる
ここまで読んでお気づきかもしれませんが、保育園看護師の医療行為は「これが正解」という一本の線がありません。
理由は、判断のもとになるものが園ごとに違うからです。
- 園の方針:与薬をするか、保育補助の比重をどうするか、園長の考え方で変わる
- 自治体のルール:与薬マニュアルや薬の取り扱い基準は自治体ごとに整備されている
- 嘱託医の指示:園には嘱託医がいて、健診や緊急時の判断の後ろ盾になる
だからこそ、これから応募する人は、面接で次のことを具体的に聞いておくのがおすすめです。
- 与薬はどこまで対応しているか(市販薬・座薬などの扱い)
- 医療的ケア児の受け入れがあるか
- 緊急時(エピペン・けいれん等)の対応手順が決まっているか
- 看護業務と保育補助の割合はどのくらいか
このあたりの「園による当たり外れ」と、経験者がどう感じているかは、保育園看護師は実際どう?経験者の本音に声を集めています。転職を具体的に考えはじめた人は、未経験から保育園看護師になるにはもあわせてどうぞ。
よくある質問
Q. 保育園看護師は点滴や採血をしますか?
日常業務としては、ほとんど行いません。保育園は治療の場ではなく、健康な子どもの生活・成長の場だからです。中心になるのは健康観察・応急処置・与薬の管理・アレルギー緊急対応で、病棟のような処置の手技はほぼ使わなくなります。
Q. 看護師の資格がないと医療行為はできませんか?
体温測定や軽いケガの手当てなど「医療行為にあたらない」とされる範囲は、保育士も対応できます。一方、与薬や医療的ケアなど医療行為にあたるものは、医師の指示のもとで看護師が担うのが基本です。ただし喀痰吸引・経管栄養は、所定の研修を受け登録された保育士が実施できる場合もあります。
Q. 保育園で薬を飲ませてもらえますか?(保護者目線)
原則は「医師が処方した薬を、与薬依頼票などの書面とともに預ける」形です。市販薬は預からない園が多く、対応範囲は園や自治体のルールで異なります。実際の可否は、通っている(通う予定の)園に直接確認してください。
Q. エピペンは看護師しか打てないのですか?
いいえ。緊急時には、その場に居合わせた保育士や教職員が本人に代わって注射しても医師法違反にならないと整理されています。看護師がいればもちろん中心的に動きますが、「看護師が不在の時間帯でも園全体で対応できるようにしておく」ことが大切です。
Q. 医療行為が少ないと、看護師としてのスキルは落ちませんか?
処置の手技を使う機会は減ります。ただ、観察力・アセスメント・感染管理・保護者対応は毎日フル稼働します。「技術の看護」から「予防と判断の看護」への転換という面が強いです。詳しくはスキルが落ちる・錆びる?で書いています。
まとめ:保育園看護師の医療行為は「予防と判断」が中心
- 医療行為とは「医師の判断・技術がないと危険がある行為」。看護師は医師の指示があれば幅広くできるが、保育園にはそもそも医療行為をする場面が少ない
- 点滴・採血はほぼなし。中心は健康観察・応急処置・与薬管理・エピペン対応・感染対策
- 与薬は原則医療行為。医師の指示と与薬依頼票が前提で、市販薬は預からない園が多い
- エピペンは緊急時なら医師以外でも注射でき、看護師が体制づくりの中心を担う
- 医療的ケア児の受け入れ園では、経管栄養・吸引など医療的ケアが日常業務に入る
- 「どこまで」は園・自治体・嘱託医で変わる。面接で具体的に確認するのが後悔しないコツ
保育園看護師の医療行為は、「手技をどれだけやるか」ではなく「予防と判断をどれだけ担うか」の仕事です。線引きを正しく知っておけば、転職後の「こんなはずじゃなかった」はかなり減らせます。次は仕事内容の全体像や経験者の本音ものぞいてみてくださいね。